「君のコケラになりたい」 「ハッ、ハッ、ハッ・・・」 白い息を弾ませながらジタンは夜道を駆けて行く。 右手にダガー、左手には小さな・・・いや、少々長細い包み。 目指す先はアレクサンドリア城。 そこには今もなお、立派な女王たらんと努めているガーネットが待っている・・・はずだった。 次から次へと押し寄せる国務の合間を縫ってようやくこの晩、 わずかの時間ながら得ることの出来たつかの間の休みを、彼女が予定通りに取れてさえいれば。 『今年のクリスマスは、、2人きりで過ごしたいな・・・』 『でもわたくし、お城から外出するいとままでは取れそうにありませんわ・・・』 『う〜ん・・・・よし! それじゃ俺がまた誘拐してやるよ。  外出が許してもらえなくたって、誘拐されたんだったら不可抗力だろ?(笑)』 『まあ。またそんな事を。スタイナーやベアトリクスが聞いたら何て言うでしょうね?』 そう言いながらも楽しそうに笑っていたガーネットの顔を思い出し、少しだけ顔がほころぶジタン。 しかしディナーはおろか、何をするにしてももうかなり遅い時間であった。 気が利いていて手ごろなプレゼントを「掘り当てる」のにチョコが手間取ったせいだったからではあるが・・・ 「(やっぱりこういうのは他人(鳥)任せにしないで、自分で用意するべきだったかなぁ・・・)  ・・・うん?」 ふと、空を見上げると白いものがちらちら舞い降りて来ていた。 「雪か・・・? この辺じゃ珍しいな。」 そんな感傷にふける暇もなく、ジタンはアレクサンドリア城に着いた。 そして厳重な警備(?)をものともせず、いともあっさり女王の間の扉の前まで辿り着く。 もっとも、今のアレクサンドリアではすっかり顔パスになってしまい、 城内で彼を見咎めるのがせいぜいスタイナーくらいしかいなかったのではあったが、 それでもその後の展開を考えると、やはり誰の目にも留まりたくなかったのは正直なところであった。 しかし最大の問題はガーネットである。 すでに時間が時間である。 果たして彼女は怒っているだろうか? そもそも、まだ待ってくれているのだろうか? 少しばかりの躊躇を打ち消しながら、予め打ち合わせておいた合言葉を言う。 「笑止千万! それですべて解決するなら、この世に不仕合わせなど存在しない。」 しかし、部屋の中からの返事は無い。 しばらくそのまま待っていたがやはり何の音沙汰も無かった。 やはりもう床に就いてしまったのだろうか、 それとも怒ってどこかへ出かけてしまったのだろうか、 などと思っていると・・・・・・不意に背後に人の気配を感じた。 「誰だ!?」 むしろ自分の方が(一応)侵入者であることも忘れて、 ジタンは背後の気配に向かって叫びかけ、慌てて口を押さえる。 「今のは・・・まさか?」 一瞬だけ垣間見えた人影。 白魔道士風の衣装。 半ば確信したまま、ジタンはその影を追いかける。 城の中を駆け下り、駆け上がり、また駆け下りてはさらにまた駆け上がる。 妙なことに、とも思えるほどに運良く警備中の兵士達に出くわすこともなく、 やがて彼らは城の塔の最上部にまで上って来た。 「行き止まりだぜ? さあ、鬼ごっこはもうおしまいだ。  約束通り誘拐させていただきます・・・ガーネット王女、いや、女王陛下。  それとも、時間に遅れたこと、怒ってるのかい?」 そう言ってジタンが手を差し出す。 しかしガーネットは答えない。 ただ黙ったままジタンに向かって微笑むと・・・ 「そこまで再現するか〜〜〜!?」 ガーネットの微笑みにはっとして慌てて駆け寄ったジタンのまさに予想通りに、 彼女は塔の手すりの縁にかかっていた万国旗のロープを掴み、それに身を預けるように飛び降りた。 そしてそれを追いかけて同じようにロープを掴んで飛び降りるジタン。 大きく振り子のように振られ、ロープにしがみつき遠心力に耐えていると、 やがて暗闇の中から眼前に劇場挺の姿が浮かび上がってきた。 そのプリマビスタのブリッジに相次いで着地するガーネットとジタン。 が、しかし・・・ 「きゃっ!?」 「ダガーッ!?」 着地のバランスを崩し、ガーネットがブリッジから落ちそうになる。 間一髪、それをジタンが支えて事なきを得るが・・・ 「あっ!?」 代わりに彼の手の中から、大事に大事に持ってきたプレゼントの包みがこぼれ落ちる。 それは劇場艇のひさしの上を跳ねながら、艇の外へと落ちていく。 しばらくして、小さな水音が聞こえたような気がした。 「大丈夫だったか、ガーネット姫・・いや、女王様?」 「え、ええ・・・ごめんなさい、ちょっとした余興のつもりだったのだけれど・・・  何か大事な物を落としてしまったのではありませんか?」 今の落し物には、彼女も気付いていたようであった。 しかし、ジタンは微塵も落ち込む様子など見せずに答える。 「別に大した物じゃないよ。  ガーネットへのプレゼントのつもりだったけど・・・今にして考えたら、  あんなつまらないもの渡さなくて良かったかもな(苦笑)」 「・・・・・・。本当にごめんなさい。」 「あ、だから気にしなくていいって・・・」 ガーネットには、ジタンが自分に対して気を使っているのが痛いほどに分かった。 彼女にしてみれば、せっかく用意してくれたプレゼントを無にしたばかりか、 その上余計な気まで使わせてしまっているのが心苦しかったのであった。 「だからさあ・・・それに、本当はもっと凄いプレゼントを用意しておいたんだぜ?」 「え・・・?」 「もっとも『俺から』じゃなくて『俺たちから』だけどさ・・・見たい?」 「・・・・・・(コクリ)」 ガーネットは黙って頷く。 「よ〜し、それじゃ早速出発だ。  もう飾りつけが終わってるといいんだけど・・・」 「え? ジ、ジタン? こんな夜中に、一体どこへ行くのですか?」 今度はジタンが何も答えない。 しかし、突然エンジンが動き出し、プリマビスタが上昇を始める。 そしてそれを待っていたかのように、ようやくジタンが口を開く。 「また誘拐してやるって言っただろ?(笑)」 「ジタン、どこへ・・・?」 にんまり笑って、ジタンはゆっくり答える。 「見せてやるよ、世界一のクリスマスツリー・・・・・・イーファの樹をさ(笑)」 「ところでジタン。さっきの包みの中身なんですけど・・・?」 「う・・・(^^; ダンシングダガー(苦笑)」