「聖夜の贈り物」 「ハッ、ハッ、ハッ・・・」 白い息を弾ませながらクラウドは夜道を駆けて行く。 背中にバスターソード、右手に今日の報酬、左手には小さな包み。 目指す先は、ニブルヘイムの我が家。 そこには、今日にも子供が生まれようかというティファが待っている。  『今日生まれたら、本当にクリスマスプレゼントだね?(笑)』  『・・・ああ、そうだな。』  『クラウド・・・あまり嬉しくない?』  『いや、なんかこう・・・実感がないんだ。』  『そう? じゃあ、お仕事頑張ってきてね。』  『ああ、行ってくる。』 しかし、イブを楽しむと言うには、もうかなり遅い。 昼間の仕事が長引いたからだった。 いや、長引かせてしまったのは自分の責任だった。  『クラウド! ティファと子供の事が気になるのはしょうがねえけどよ。   そんなに早く帰りたいんだったら、今は仕事に集中しやがれってんだよ!』  『・・・関係ないな。』 気になっていなかったわけではなかった。 しかし、クラウドの技のキレを鈍らせていたのはむしろその逆のものだった。  『早く帰らなくちゃ・・・』 言葉とは裏腹に、ニブルヘイムに向かう彼の足は急ごうと思えば思うほど重く感じられた。 かつて彼らに星の未来を託して消えて行った、古代種の娘。 彼女の面影は今でもクラウドの頭の中から薄れることすらなかった。 むろん、それはティファにとっても同じ事が言えた。 自分たちが今こうして幸せに暮らしている影で、どれほどの尊い犠牲があったのか・・・ 自分たちだけが幸せになり、まして子供まで授かったことが、彼女への裏切りにはならないのか・・・ 答えは出ない。 ただ、幸せになればなるほど心のどこかにわだかまりが生まれる。 そんな気がして、自然と足が重く感じられて来るのだった。 しかし、だからといって帰らないわけにもいかない。 幸せになることがはばかられるように感じられるのと同じくらい、 幸せになって見せる事こそが、星の潮流に還って行った彼女に対する義務なのだとも感じていたから。 そうこうする間に、クラウドはニブルヘイムに、我が家の前に帰って来た。 果たしてティファは怒っているだろうか? そもそも子供はもう生まれているだろうか? 少しばかりの躊躇を打ち消しながら、クラウドは我が家のドアを開ける。 「あ、やっと帰って来た。遅かったね、ご苦労様(^^)」 ティファはいつもと変らぬ笑顔で待っていた。 いつもと違うのは、ベッドの上に上体を起こしていた彼女の腕の中に、 真新しい産着に包まれた、新しい家族の姿があったこと・・・ 「生まれ・・・たのか?」 「うん。女の子だよ。」 クラウドは黙ったまま、恐る恐る「二人」の方に近付いて行く。 そして、生まれたばかりの愛娘の顔を覗き込み、天を仰ぐ。 「こんな事って・・・こんな事って!」 しかし、それは決して悲嘆にくれた叫びではなかった。 クラウドの体の中から、目の奥に向かって熱いものがこみ上げてくるような気がした。 ついさっきまで全身を固く強張らせていたわだかまりが、 湯に溶けていくようにすうっと消えて行くのがわかった。 「ねえ、クラウド。この子の名前だけど・・・」 「ああ、分かってるよティファ。一目見た瞬間からもう決まってるよ。」 そう言いながら、今再び我が子の目の前に顔を寄せ、涙に潤んだ蒼い瞳で微笑むクラウド。 そして・・・ 「ようこそ」 「違うでしょ、クラウド。」 「ああ、そうだな。お帰り・・・」 『エアリス』